賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」が成立
令和2年3月、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」が閣議決定され、サブリース業者による勧誘・契約締結行為の適正化と賃貸住宅管理業の登録制度の創設に向けて国会での審議がスタートし、同年6月12日に成立しました。
この新法案は、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図るため、サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化のための措置を講ずるとともに、賃貸住宅管理業を営む者に係る登録制度を設け、その業務の適正な運営を確保することが目的です。
本記事では、この新法案の内容について、これまで実施されていた任意の登録制度と比較します。
賃貸住宅管理業の法制化までの道のり
賃貸住宅は、単身世帯の増加等を背景に、我が国の生活の基盤としての重要性が一層増大していますが、その管理については、オーナーの高齢化等により、管理業者に委託するケースが増えています。しかしながら、管理業務の実施を巡り、管理業者とオーナーあるいは入居者との間でトラブルが増加しており、特にサブリース業者については、家賃保証等の契約条件の誤認を原因とするトラブルが多発し社会問題となっていることから、対応が喫緊の課題となっていました。
そこで、平成23年に、賃貸住宅管理業者登録制度が、国土交通省告示という任意の制度として、スタートました。それに併せて、賃貸不動産経営管理士という公的資格も創設され、賃貸住宅管理業者の質の向上が図れてきました。
さらに、平成28年には、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(ガイドライン)の改正により、国土交通大臣が管理する賃貸住宅管理業者の登録番号が、賃貸住宅の媒介時における重要事項説明の項目と位置付けられました。
平成29年には、住宅セーフティネット法(住宅確保配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)が改正され、生活保護を受給している入居者が家賃の請求に応じない場合等に福祉事務所に通知できる者として、登録を受けた賃貸住宅管理業者が位置付けられました。
平成30年には、民泊法(住宅宿泊事業法)において、住宅宿泊管理業者に求められる実務能力として認められる資格の1つに、登録を受けた賃貸住宅管理業者や賃貸不動産経営管理士が位置付けられました。
このような経緯から、今回の新法案が不動産業界の熱い期待のもと国会で審議されるに至りました。
新法案では賃貸住宅管理業者の登録は法的義務に
これまで任意の登録制度だったものが、新法案では強制となります。登録を受けていない者が賃貸住宅管理業を行うと1年以下の懲役・100万円以下の罰金に処せられることになります。
サブリース方式による賃貸管理
賃貸住宅管理業の定義も変更されます。これまでは、オーナーから委託を受ける(管理受託方式)か、一括して借り上げて(サブリース方式)、@入居者からの家賃、敷金等の受領、A賃貸借契約の更新事務、B賃貸借契約の終了事務のうち、少なくとも1つ以上を行う場合を管理事務として、登録の対象としていました。
それに対して、新法案では、賃貸住宅管理業を、賃貸住宅のオーナーから委託を受けて、@その委託に係る賃貸住宅の維持保全業務と、A家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理業務と定義付けています。サブリース方式による賃貸住宅管理が登録の対象となっていない点が、これまでの制度は大きな違いです。
もちろん、サブリース業者が、オーナーから管理委託を受けて賃貸住宅管理業を行う場合は登録が必要となります。
なぜサブリース方式による管理が登録の対象外に?
今回、サブリース方式が登録の対象外とすることで、法理論上の整合性が保たれるからです。
というのは、これまでの制度では、家賃等の収受・更新や終了事務という基幹事務を業として行う点を重視し、オーナーから委託される場合も、賃借する場合も同様に登録の対象として規制をかけていました。
しかし、本来的には、賃貸管理の業務はオーナーとの委任又は準委任契約と捉えるのが性質上の帰結といえます。それを、オーナーとの賃貸借契約に管理委託の特約を定めることで同様の効果を持たせようとすると、法理論は複雑になります。
たとえば、管理業者が入居者から家賃を受領する業務を例に両者を比較すると、委任の場合、管理業者は報酬を得てオーナーを代理して家賃等の請求を行うので、滞納事案で紛争に発展しているときは、弁護士法第72条の非弁行為に該当する可能性があり、それ以上の請求や法的な手続きを執ることができません。それに対して、賃貸借(転貸借)の場合、管理業者は入居者に対して賃貸人すなわち当事者となるので、自ら法的な手続きを執ることができます。
もちろん、サブリース方式であっても、オーナーから委託を受けて賃貸住宅管理業を行う場合はサブリース方式における法規制と、賃貸住宅管理業者としての行政庁による監督の二重の規制によることになります。
サブリース方式による管理の事後規制
賃貸住宅管理業の登録を受けないサブリース業者が、行政の監視を全く受けないというわけではありません。サブリース方式での賃貸管理について別の章を置き(第三章 特定賃貸借契約の適正化のための措置等)、オーナーや投資家に対して賃貸経営を促すための広告や勧誘について規制を設け、賃貸借契約の前の重要事項説明や契約書面の交付を義務付け、違反した業者には勧誘行為を停止させる措置を講ずることができる旨の規定を置いています。
さらに、停止命令に違反したり、勧誘で故意に重要な事実について不実のことを告げたり、重要事項説明書面や契約書面を交付しなかったりした場合には、懲役や罰金等の罰則規定までもが設けられています。
つまり、サブリース業については、業務内容についての事後的な規制により、その適正化を図ろうとしているわけです。
違法不当なサブリース業者をなくす工夫
上記の事後的な規制を強化するために、新法案では特殊なルールを定めています。それは、国土交通大臣に対する申出の規定です。すなわち、「何人も、特定賃貸借契約の適正化を図るため必要があると認めるときは、国土交通大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる(第1項)。国土交通大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない(第2項)」という規定を設けて(第35条)、違法不当なサブリース業者を国土交通大臣に申告できるようにしています。「何人も」となっていることから、契約当事者であるオーナーや投資家に限らず、弁護士や入居者等からの申告も可能となっているのが特徴です。
新法案では賃貸不動産経営管理士等の設置が法的義務に
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、1人以上の「業務管理者」を選任して、その営業所又は事務所における業務の監督等を行わせなければなりません。この業務管理者は他の営業所又は事務所と掛け持ちできませんので、営業所又は事務所ごとに別々の業務管理者を置く必要があります。
「業務管理者」とは、賃貸住宅管理業者の営業所又は事務所における業務に関し管理事務を行うのに必要な一定の知識及び能力を有する者です。具体的には賃貸不動産経営管理士又は一定の講習を修了した宅地建物取引士となります。
なお、賃貸住宅管理業の登録を受けていないサブリース業者の場合は、業務管理者を設置する義務がありません。
賃貸不動産経営管理士は重要事項説明と書面の交付の担当者ではない?
これまでの制度では、管理受託方式の場合も、サブリース方式の場合も、オーナー・投資家と契約を締結するには、事前の重要事項説明及びその書面への記名押印、契約書面への記名押印を、賃貸不動産経営管理士又は6年以上の実務経験を有する者に行わせる義務を、管理業者に課していました。
新法案では、重要事項説明・書面の交付の義務を管理業者に義務付けただけで、その説明担当者等を限定していません。
今後予想される展開
不動産取引に関する類似の規制として、宅地建物取引業法があります。宅地建物取引業法は、売買・交換・貸借について、主に買主・借主等を保護するため、契約段階での規制を定めた法律です。それに対して、賃貸住宅管理業は、貸借について、主に貸主を保護するため、契約後に規制を掛けるものです。多くの業者は、その両方を行うことで、オーナー・入居者に対する途切れることのないサービスを提供しています。
おそらく、今回の賃貸住宅管理業の規制は、その性質上、宅地建物取引業の規制と類似の変遷をたどるものと推測されます。
宅地建物取引業法の規制は、昭和27年に創設された段階では、賃貸住宅管理業と同じく、登録制度でした。その後、幾多の改正を経て、現在のような免許制となり、かつ、宅地建物取引士という国家資格者を各事務所に、従業者の5分の1以上の割合で、専任で設置させたり、重要事項説明や書面への記名押印を担当させたりするようになりました。
新法案の規制も、同様の変遷をたどり、免許制、資本の拡充(供託金等の制度)、重要事項説明や書面に対する法的責任の明確化(新法案で既に電子書面での契約が可能となっているので、押印という慣習はなくなるものと思われます。)、サブリース業者の参入規制と入居者(転借人)に対する重要事項説明等の義務化、商業施設の賃貸業への拡張が予測されます。
新法案が成立し、賃貸管理業の規制強化が図られることで、悪徳業者が減り、不動産投資・賃貸経営が今以上に盛んになると予想されます。
《関連資料》
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「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」を閣議決定(国土交通省HP)