不動産に関する書籍

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山本卓「持続可能社会への不動産課題の検証」(2024.7)

持続可能社会への不動産課題の検証

本書は、明海大学不動産学部山本卓研究室に所属するメンバーによる近年の研究活動を取りまとめ、研究成果の一部として出版されたものであり、市民の生活基盤である住宅と、企業の経営活動の基盤である企業不動産という2つの分類を意識しながら、6つのテーマを取り上げ、課題を設定し、検証を試みている。

<著者>

・山本 卓(やまもと たかし)
・古川 傑(ふるかわ すぐる)
・松永 力也(まつなが りきや)
・片川 卓也(かたかわ たくや)
・田中 嵩二(たなか けんじ)

 

出版社 ‏ : ‎ Ken不動産研究 (2024/7/29)
発売日 ‏ : ‎ 2024/7/29
単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 188ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4910484175
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4910484174
寸法 ‏ : ‎ 21 x 14.8 x 1.1 cm

持続可能社会への不動産課題の検証

 

本書各章の概要

持続可能社会は、不動産のあり方に大きく依存している。市民の生活や企業の活動は不動産抜きに考えられない。現在、高齢化と人口減少が急速に進んでおり、生活や経済活動の基盤が脆弱になりつつある。このような背景のなか、改善のための取組みの機運が高まりつつある。

2000年に国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム開発目標(MDGs : Millennium Development Goals、以下「MDGs」)が2015年で終了することに合わせ、同年9月に「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals、以下「SDGs」)が新たに採択された。MDGsは、主に発展途上国における貧困や教育、健康などに関する問題を解決するために設定された目標であるのに対し、SDGsは、17の基本的目標と196のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、世界のすべての国の包括的な目標として設定され、日本においても積極的に取り組まれてきている。MDGsは、発展途上国における貧困問題等に対し、政府等が主体となって取組みをみせていたが、SDGsでは、先進国の問題も含め世界のすべての国が取り組むべき普遍的な目標となっている。これらの目標は、各国政府が取り組むだけでは目標の達成は困難で、地方自治体や企業、そしてすべての人々に至るまで、その目標に向けた行動が求められている。

17の基本的目標は、「社会・経済・環境」の3つの側面から捉えることのできる目標を設定しており、社会的包摂、経済成長、環境問題を調和させる必要があるとされている。また、持続可能な社会とは、「将来世代の欲求をみたしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」を指し、環境問題をはじめとし、貧困や平和、人権、保険、衛生等のあらゆる分野において、将来世代のニーズを満たすことに配慮しながら、現在の世代のニーズも満足させるような開発を行うこととされている。

日本においては、人口減少、高齢化、経済停滞、気候変動、環境破壊、多様化等、様々な課題や事象が複雑に絡まりあい、課題解決にむけた最適な策が見いだせない状況である。上述のように、持続可能社会と不動産のあり方は大きく依存し、不動産は人々の生活や生産の基盤となる環境を生み出すものであり、不動産の適切な利用は社会的意義が大きいものである。したがって、今後目指すべき方向性を見つけるべく、持続可能社会への取組みを様々な視点から考えていく必要がある。

本書では、市民の生活基盤である住宅と企業の経営活動の基盤である企業不動産という2つの分類を意識しながら、6つのテーマを取り上げ、課題を設定し、検証を試みている。

第1章から第3章は、市民の生活基盤である住宅にまつわる課題を検証している。それぞれについて簡潔に示すと以下のとおりである。

第1章 高齢化社会と資産形成リテラシー

高齢者が、十分に経済的に自立して、健康で幸福感が高い社会になることが望ましい。高齢者の割合が増大するなか、持続可能社会を実現するには、若い世代の負担感が少なくなることが望ましく、高齢者の経済的自立性の必要性がさらに高まるものと考えられる。
本章では、このような背景のもと、高齢者のファイナンシャルリテラシーに焦点を定める。このファイナンシャルリテラシーを住宅取得の経験と関連させ、究明事項を設定のうえ検証を行う。高齢者の経済的自立性を高めるために求められることを提示する。

第2章 配偶者居住権と担保価値

高齢者の経済的自立性を高める法制度も動き出している。その一つが、「配偶者居住権」の制度である。この制度は新しいため、立法趣旨の実現性に十分に検証がなされていない。本章では、「配偶者居住権」の想定される課題を提示のうえ、複数の方法により検証を試みる。

第3章 ESG不動産投資とその促進策

近年、ESG不動産という言葉が生まれている。一例として、環境に配慮した賃貸住宅がある。このような不動産を普及させることにより、CO2の削減、省エネルギー効果を生み出せる。しかしながら、このような不動産に対する潜在的需要は見いだせるが、それを十分具現化させるための賃貸経営管理手法が確立していない状況にある。本章では、現状を分析し、今後の具体的課題を提示する。


第4章から第6章は、企業の経営活動の基盤である企業不動産にまつわる課題を検証している。それぞれについて簡潔に示すと以下のとおりである。

第4章 遊休不動産保有の投資家評価

一定規模以上の企業の活動は、不動産を基盤にして行われる。製造業であれば工場が、商業であれば店舗が、活動の拠り所となる。企業活動が永続的に行われるには、これらの不動産が十全に活用され、投資家にも評価されていることが重要となる。本章では、企業活動の不十分さによって引き起こされた遊休化した不動産を保有することが、投資家にどのような評価を受けるのか検証する。

第5章 工場跡地の自社開発

製造業の経営活動の基盤は工場である。近年、産業構造の変化に伴い、工場が遊休化し、企業の経営活動や地域社会に負の影響を与えているケースが散見される。企業や地域社会の健全な成長のために、遊休となっている工場跡地を開発する選択肢がある。この開発に際しては、少数であるが自社による開発が行われている。本章では、この自社開発の経営的効果を検証する。

第6章 CO2排出と企業価値

投資先企業のESG情報を活用する動きも広がり、企業の業績や経営戦略にどのように結びついているか、財務情報とともに投資の判断基準の1つとし、企業の持続的成長と価値向上に期待する。これら必要な情報は投資家ごとに異なり、土壌汚染、アスベスト、CO2排出等、企業不動産に起因する環境問題も多く、企業の中長期的な業績に影響をあたえる可能性も考えられる。このような背景のもと、本章では、企業の環境情報開示に着目し、CO2削減の情報開示が投資家の意思決定に与える影響を明らかにすることを目的とし、その上で環境情報開示に対する課題を検討する。

本書は、明海大学不動産学部山本卓研究室に所属するメンバーによる近年の研究活動の一部を取りまとめたものとなっている。不動産学部の先生方からは、日頃暖かいご指導を頂いており、ここに改めて感謝を申し上げる次第である。また、筆者らが属する日本財務管理学会、日本不動産学会、資産評価政策学会等の多く先生方からは、筆者らの稚拙な研究に対していつも親身のご指導を頂き、大変ありがたく思っている。本書の内容は、雑ぱくで不十分なものであるが、刊行を機にさらに多くの先生方からのより一層のご指導を得られる機会につながればと切に願うばかりである。なお、本書は科研費・基盤研究C(22K01633)の研究成果の一部として出版されるものである。

著者のプロフィール

山本 卓(やまもと たかし)

明海大学不動産学部教授・不動産研究センター長
1984年中央大学法学部法律学科卒業、2003年青山学院大学大学院国際マネジメント研究科修士課程修了、2006年埼玉大学大学院経済科学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。一般財団法人日本不動産研究所に、不動産鑑定士として30年間勤務した後、2014年に明海大学に移籍し、現在に至る。
近著に『投資不動産会計と公正価値評価』[2015年、創成社](2016年資産評価政策学会著作賞受賞)、『グローバル社会と不動産価値』[2017年、創成社](2018年日本不動産学会著作賞(実務部門))、『ストック型社会への企業不動産分析』[2021年、創成社](2022年都市住宅学会著作賞)等がある。


古川 傑(ふるかわ すぐる)

2022年明海大学大学院不動産学研究科博士後期課程修了、博士(不動産学)
明海大学不動産学部非常勤講師、同不動産研究センター研究員
【主な論文】古川傑・山本卓(2021)「不動産会計適用における外部鑑定人の採用動機の検証」『資産評価政策学』22(1),pp.89-98.、古川傑・山本卓(2021)「環境経営促進企業の企業特性と環境リスクに対する投資家評価‐遊休不動産の活用状況を踏まえて‐」『年報財務管理研究』(32),pp.90-112.、古川傑・山本卓(2018)「遊休不動産の有用性の検証‐東証1部上場企業製造業の減損データに基づいた分析を中心に‐」『証券アナリストジャーナル』(56)2,pp.68-79.等。
【主な受賞歴】日本不動産学会湯浅賞・博士論文部門(2022年)都市住宅学会著作賞(2022年)日本不動産学会著作賞・実務部門(2018年)日本財務管理学会 学会賞・論文の部(2018年)
【科研費実績】
「KAMの記載事項と減損開示情報の情報価値抽出による新たな企業不動産戦略への応用」若手研究(23K12526)、2023-2026,研究代表者


松永 力也(まつなが りきや)

2024年明海大学大学院不動産学研究科博士後期課程修了、博士(不動産学)
不動産鑑定士、税理士、アプレイザルタックスラボ(株)代表、琉球大学非常勤講師、那覇地方裁判所評価委員・調停委員、1987年日本大学法学部法律学科卒業、2002年琉球大学大学院人文社会学研究科法学(民法)修士課程修了、2007年琉球大学大学院総合社会システム研究科会計学修士課程修了。一般財団法人日本不動産研究所に、不動産鑑定士として5年間勤務した後、1999年独立開業。
【主な論文】
松永力也(1998)「定期借地権制度の普及予測」『不動産鑑定』第35巻第5号,pp. 59-72.
松永力也・山本卓(2022)「配偶者居住権制度が不動産担保融資に与える影響―担保不動産に発生する遺産分割に係る損失の検証を中心に―」『年報財務管理研究』第33号,pp.26-43.等  
【主な受賞歴】
受賞論文は1997年沖縄県・琉球新報社共催の「国際都市構想への提言21世紀の沖縄振興策」において優秀賞を受賞。2022年都市住宅学会著作賞受賞

片川 卓也(かたかわ たくや)

明海大学大学院不動産学研究科博士後期課程3年次在籍
明海大学不動産学部非常勤講師
2019年立教大大学院ビジネスデザイン研究科博士前期課程修了。大手不動産会社、大手金融機関を経て、現在は社会人の学びの支援など社会教育に尽力し実務に精通している。不動産取引、ファイナンス、経営学を研究テーマとしている。
【主な論文】
片川卓也・山本卓(2023)「消費者の住宅ローン需要と金融リテラシーの必要性に関する研究―不動産業者が消費者に及ぼす影響と満足度に焦点を当てて―」『年報財務管理研究』第34号,pp.1-20.  
片川卓也・山本卓(2023)「不動産学部生の金融リテラシーに関する基礎的研究-アンケート調査を踏まえた金融教育のあり方の検証を中心に-」『明海大学不動産学部論集』第33号,pp.1-14.等がある。

田中 嵩二(たなか けんじ)

明海大学大学院不動産学研究科博士後期課程2年次在籍
2001年中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了、修士(法学)
株式会社Kenビジネススクール代表取締役社長
【主な論文】
田中嵩二・山本卓(2024)「ESG不動産投資とその促進策~優遇金利政策を中心に~」『明海大学不動産学部不動産学論集』(34) ,pp.17-49.
【主な研究執筆歴】
2004年に不動産法務を中心とした教育機関として設立したKenビジネススクールにおいて、宅地建物取引士登録実務講習(試験合格後の実務研修)実施機関としてその公式テキストを自ら執筆して国土交通大臣の指定を受けている。公益財団法人「日本賃貸住宅管理協会」において賃貸不動産経営管理士資格の講師を務め、一般社団法人「新しい都市環境を考える会」においては投資不動産販売員資格制度の創設及び公式テキスト執筆、試験問題の監修を行っている。業界紙である「全国賃貸住宅新聞」「楽待不動産投資新聞」において不動産法務に関する記事を毎週連載している。


持続可能社会への不動産課題の検証

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