宅地建物取引業法における人材育成の要請
平成26年の宅地建物取引業法の改正(平成27年4月1日施行)により、法律上、宅地建物取引業者に対して従業員の教育義務(努力義務)が課せられました。
これは、宅地建物取引士を含む従業員がその範囲とされており、宅地建物取引業者の信頼性とサービスの向上に対する国民の期待の大きさの現れかと思われます。
具体的には、以下の規定が付け足されました。
宅地建物取引業者は、その従業者に対し、その業務を適正に実施させるため、必要な教育を行うよう努めなければならない(宅地建物取引業法31条の2)。
宅地建物取引業者は、その従業者に対し、登録講習をはじめ各種研修等に参加させ、又は研修等の開催により、必要な教育を行うよう努めるものとする(国土交通省ガイドライン)。
従業員教育の分類と課題
従業員教育といっても、その対象も内容も異なります。以下、内定者、新入社員、幹部社員の3つに分けて説明します。
- 内定者
- 内定者向けの研修における難点は、①法的に拘束が困難であること、②研修費用等の予算確保が困難であること、③人数が変動し研修実施が困難であることが挙げられます。
したがって、内定者向けの研修を実施する場合、辞退を防ぐためにも月1回程度の研修にしておくことが有効です。予算も1人3万円程度であれば決済がおりやすいでしょう。人数の変動には、Web講義でいつでも受講できるようなシステムと直前期の集中講義が有効です。
- 新入社員
- 新入社員が研修に参加する上での注意点は、無資格者の上司等に資格などなくても大丈夫と教え込まれる危険性があることです。それが会社全体の雰囲気になっている場合、せっかくフレッシュな新入社員であっても悪い習慣をそのまま引き継ぐことになりかねません。
したがって、入社間もない新入社員研修の一環として、既存社員とは別に短期間の講座を実施することが有効です。また、社長やその他取締役などが研修のはじめに資格取得の重要性と必須であることを告知すると効果的です。また、新入社員は、最初の頃はそれほど忙しくなく、また年齢も若いので一気に暗記できる環境にあるので、入社3年以内に全員が合格する流れを作ってしまうと、あとは勝手に合格率は上がって行きます。
- 既存社員
- 既存社員、特に支店長クラスの幹部社員に対する研修の難しさは、①まとまった時間をとることが困難であること、②年齢や実務経験が試験勉強の邪魔をする場合もあることの2つが挙げられます。
したがって、たとえば月1回の支店長会議の時期などを利用して集中的に講座を実施し、その際は、できる限り参加する支店長に仕事を振らないよう部下に徹底しておくことが大切です。もちろん、社長の理解も必要です。また、豊富な実務経験が試験の邪魔をする場合の解決策は、実力のある講師による講習しかないでしょう。まったく実務を知らない試験テクニックだけの講師では、幹部社員はやる気を失います。
合格率を上げる方法
合格率を上げる要素は3つあります。
やる気、学習時価、学習効率です。
- 1 やる気(モチベーション)
- 社員のやる気(モチベーション)が上がれば合格率は上がります。逆に、やる気がなければ誰も合格できません。やる気を上げる方法には積極的(プラス)なものと、消極的(マイナス)なものがあります。
(積極的なもの)
・金銭的手当て
・朝礼での表彰
・確認テスト等 優秀者の社内での公表
・講義内容(テキスト読むだけ講師だと確実にやる気は下がります)
・中間報告による会社側の意識の再確認
・人事担当者による声掛け、励まし等のサポート
(消極的なもの)
・成績不振者に研修開始の号令をかけたり片付けをさせるなどのゲーム性の範疇での懲罰
・朝礼で社長から直接叱咤・激励
・研修に役員や人事部長も参加し、監視する
・確認テスト等の全社的な開示(点数が悪い社員も順位も含めて公開)
・宿題等の提出日時の開示 - 2 学習時間の確保
- 学習時間の確保は、そのまま会社の営業に支障をきたす可能性があるので、慎重に検討しなければなりません。また、就業時間内に実施する場合は給料も発生するので、金銭的なマイナスもできる限り避ける手立てが必要です。
(時間帯)
平日の午前中等、できる限り営業活動に影響しない時間帯を選ぶと良いでしょう。ただ、就業時間外の場合は、早朝は避けたほうがよいでしょう。もし、早朝実施の場合は机をスクール形式ではなく、会議形式にした方が学習効果が上がります。社員同士が向かい合って受講することで居眠りする人は減ります。
(助成金)
研修は、就業時間内での実施が望ましいでしょう。就業時間内であり一定の要件を充たすと助成金を得られる可能性があるので、多ければ、金銭面でも研修費用の半分、参加人数×研修時間の時給分が国の助成金で賄えます。現在は、大企業でもこの制度を利用できます。
また、就業時間内に実施することで、会社の本気度を社員に示すことができます。もちろん、就業時間内なので居眠りしないことも強制できます。
(直前期)
試験直前期に学習時間を多くとらせることができるかできないかで合格率に圧倒的な差がでます。どんなに毎週の研修の確認テストで良い点数を取っていても、試験1週間前に集中して暗記すべきところを暗記しないと不合格となります。ただ、研修に参加する社員全員に有給休暇を与えることは困難でしょう。たとえば、模擬試験等で合格圏内の社員のみに優遇措置をとらせる等の方法も効果的です。
- 3 学習効率(効率の良い学習方法)
- まず、受験指導に精通した講師を選ぶことは絶対です。テキストを読むだけの講師や、試験の傾向を把握していない弁護士や大学教員、実務経験に頼りすぎる話し上手なだけの講師から教わると、授業とは別にテキストや問題集を利用して再度学習する必要があり、時間の無駄となります。
次に、講習時間内で暗記作業も実施するよう心掛けます。後で暗記させるような研修では多忙な営業マンを合格させることは困難です。一方的に説明するだけの講義ではなく、社員に作業をさせる講義が効率のよい研修となります。
試験直前期に丸一日使った集中講座を実施するとさらに効果的です。試験直前期は、どの受験者もやる気になっているのが普通です。会社の休業日を利用して朝から晩まで総まとめ講義と演習をやらせることでボーダーラインの成績の社員を全員合格させられるようになります。
学習は演習を中心とすることです。新人の講師が陥りやすいことですが、一方的にずっと話し続ける講義。どんなに楽しくて意義ある内容でも、最後は、受講者自身が過去問と向き合って真剣に考えて、間違えた問題についてなぜ間違えたのかを一つ一つ確認しなければ、絶対に試験には合格できません。講義時間内に、問題演習させる時間を多くとることが重要です。講習開始前10分(または講習のはじめの10分)は問題演習を癖付けるとよいでしょう。
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